『世界で一番美しい少年 』雑感

はじめに

私の好きな美少年映画5選という記事を書くくらい、“映画の中の美少年”に傾倒していた人間による、ビョルン・アンドレセンのドキュメンタリー「世界で一番美しい少年」感想です。観た人向けのかなり乱雑な記事です。

Fan's Voiceさんによるオンライン試写会で鑑賞しました。

 

youtu.be

 

鑑賞するまで『ベニスに死す』へ出演したことで彼の周りに起きた変化、映画界における子どもの消費についてがメインテーマだと思い込んでいましたが、実際はもっと広く深い部分が映し出された映画という印象を受けました。

 

ビョルンの現在と生い立ち

人の生まれ育ちや生き方について言及するのは好きじゃないので詳しくは書きませんが、ビョルン自身が自らをしっかりと振り返って見つめている姿が印象的でした。

ここまで深く掘り下げ曝け出すのか、と面食らった部分も多かったです。

それと同時に、この彼の姿を『衝撃の』とか『破滅の…』みたいなコピーで売り出しているの失礼だな…とも強く感じました。

 

スターを取りまくホモソーシャル

ビョルンが演じたタジオは、彫刻のような、冷たく、完全な美少年というビスコンティの理想そのもの。

しかし、それはあくまで映画の中の話。演者であるビョルン・アンドレセンは温度のある人間です。

だからこそ、悪しきホモソーシャル特有の空気に晒されなければならなかったのでしょう。

悪いホモソーシャルの慣習に、”相手をいかに雑に扱えるか”で男らしさを証明する構図があると思うのですが、公開後の会見でのヴィスコンティの発言や、その後大人たちにクラブなどへ連れ回されたというエピソードは、その最たる物だと感じました。

 

何が最悪って、当時のビョルンには「美しいスターである未成年」という属性が付加されていたこと。性的対象として鑑賞されながらも、ホモソーシャルに揉まれて嘲られる。あまりにも耐え難い…。

 

日本でのビョルン

来日したビョルンがゆかりのある人々と対話をする映像があります。

その中で、”オスカルのモデルはビョルン”という縁で登場された漫画家・池田理代子先生が「私は今までずっと彼の外側だけを見ているんじゃないかと思っていたけれど、ちゃんと内側も見れていました」といった趣旨の発言をしていました。

コーディネーターの方によると池田先生とビョルンは実際に楽しく話をされていたそうで、だからこそ先生はこういった発言をされたのでしょうが、多分、そんなことはないと思うんですよね…。

 

日本での映像に登場する人々は皆、「ベニス」におけるタジオを前提にビョルンを見ていたように思います。

憧憬に輝く日本の人々の瞳と、悲しげなビョルンの表情が対照的でした(無論、そう見えるよう編集されているのだとしてもです)。

あと、悪い意味で印象的だったのは、日本側の人々から「白人だから…」「外人さん」というワードが当たり前に飛び出したこと。

『ベニスに死す』公開当初を知る年代の人たちにとってはある種賞賛のようなワードなのでしょうが、21世紀の価値観と照らしわせると排他的に感じてしまう。

 

芸術か性的消費か

芸術である、高尚な物である、と作り手が思っていたとしても、結局どう受け取るかは鑑賞する人間次第なんですよね。

オーディション時、服を脱ぐよう指示したビスコンティの発言に他意はないとしても、消費する側もそうであるとは限らない。

実際、私は初めてビョルンのオーディション映像を見たとき、その年相応な姿にほころんでいました。恐ろしいことに、彼があの瞬間を拒んでいるなんて考えもつかなかったのです。

少女に対し『服を脱げ』と言おうものなら、オーディションであっても許されるべきでないと感じるはずなのに。ただ、対象が少年であるというだけでそれがスッポリ頭から抜け落ちてしまっていた。

月並みな感想だけど、背景を考えずに消費していたことがひどく恥ずかしかったです。

 

客体化すること

美しい少年タジオを見つめ、死に抗うことをやめるアッシェンバッハ。

世界で一番美しい少年だった自分を見つめ、期待しないことを選んだと語るビョルン。

 

ラストの演出の意図はこの対比だと思うんですが、誤解を恐れずに言えば、あざといと感じました。

現在のビョルンが少年時代の自分を消費している様を示唆していると受け取ったのですが、なんというか、結局そこに集結させちゃうんだ…みたいな…。

 

主題は何だったのか

他の人の感想を見て、このドキュメンタリーは『ベニスに死す』に関わることで彼に起きた出来事(特段、性的消費について)が主題だと受け取っている人が多い印象を受けました。

もちろんそれは、世界で一番美しい少年であるタジオ及びビョルンを消費した側の私たちもきちんと見つめるべき事実であり、受け止めるべきテーマではあります。

ただ、このドキュメンタリーの主題はそれだけにとどまらないのでは?というのが私の感想です。そうでなければ、ビョルンの生い立ちや現在置かれている状況まで深く掘り下げる必要はないじゃないですか。

ビョルン・アンドレセンには、恋人がいて、家族がいて、好きな音楽に触れることができている。

『ベニス』やそれを起因として起きた事も、彼の一部に過ぎず、このドキュメンタリーは、生まれ、育ち、スターとして祭り上げられ、表舞台から身を引き、現在に至るまでのすべてをひっくるめた「ビョルン・アンドレセンの人生」を静かに眼差すための映画だと感じました。

 

総括

この映画を観ることで何かしらの感想を持つことも、結局、彼を客体化し消費する行為なんだと思います。

だからといって、感想を持たないなんてことはできないのが人間というもので…。

このドキュメンタリーをどう受け止めるべきなのか少し考えてみたのですが、未だに答えはわかりません。

 

制作中という記事を見かけてから2年、様々な場所で情報を追い続け、やっと鑑賞することができました。

乱雑な記事ではありますが、以上が私の感じた『世界で一番美しい少年』です。